山口厚『刑法総論』
結果無価値論の権化,山口教授の手になる体系書です。 遂に第3版が出ました!が,まだ読み終わっていないので,とりあえず今まで使ってきた第2版を中心にレビューしていきたいと思います。読了し次第,追記したいと思います。 第3版については,とりあえず形式面についてだけいくつか書いておきたいと思います。
- 作者: 山口厚
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2016/03/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
本書の特徴(形式面)
薄さ
類書に比べるととても薄いです。本書よりも薄いのは小林総論くらいでしょう(笑)。第3版になって32頁増えて440頁となりましたが,それでもなお薄いです。
開きやすさ
本書はとても薄いですが,開きやすさは抜群です。どの頁で開いても勝手に閉じることはありません。既にすこし使用してしまっていることを差し引いても,初見時に開きやすいなと思ったことや,実際この短期間(購入から10日足らず)で馴染んだということで,リークエなどのようにすぐに閉じてしまってイライラということもないでしょう(笑)。
本書の特徴(内容面)
理論的一貫性
山口刑法の最も大きな特徴として,しばしばその理論的一貫性が指摘されます。各論点について結果無価値論の立場からの帰結が示されており,非常に明快であるといえます。もっとも,この点は本書だけを読んでいてもあまり気づかないかと思います。(その場しのぎの比較衡量で結論を出しているような)別の基本書等と比べたときに,本書の素晴らしさに気づくような気がします。
シャープな文章
また,山口教授のシャープな文章も本書の魅力の一つです。本書の記述は端的で,文意が明確です。これは些細なことに思えるかもしれませんが,文言の定義・意義が重要な刑法においてはとても重要なことだと思います。
結果無価値論
先述のとおり,本書は結果無価値論の立場から整理されています。そして体系的に整序された結果,判例・通説と異なる部分もそれなりにあります。しかし,すべて通説的見解に立つ学者などいませんので,本書だからどうということはありません。むしろ,見解に多少の違いがあったとしても,本書にあたってみることで頭の中が整理されることもあるかと思います。
記述の濃淡
本書を使っていて思うのですが,(犯罪論の手前までの)序論部分が無茶苦茶薄いです。いま手元に井田総論と大谷総論があるのですが,それぞれ67頁と70頁を費やしているのに対して,本書はわずか22頁です(笑)。(もっとも井田総論と大谷総論とでも内容は全く違いますが。)記述に濃淡をつけることで,(物理的な方の)薄さを実現できているのだと思います。
第3版での変更点(形式面)
ここで,以前の版と比べて気づいたことを指摘したいと思います。なお,はじめに書いたように,僕は第3版を読み切っていませんので,形式面を中心に述べたいと思います。内容面については,後日,追記する予定です。
読みやすさ
今回の改訂で,よみやすさが向上したように思います。第2版までの本書はカッコ書きが非常に多く,読みにくいとの声もありました。しかし,第3版ではカッコ書きの多くが本文(?)に昇格し,それに伴いもとの文も修正されるなどして非常に読みやすい記述となりました。
文の修正についていえば,本文の至るところが今回修正されており,教授の丁寧さがうかがえます。また表現の変更具合から,教授のお考えをすこし読み取ることができるようにも思います。印象的な例をひとつ挙げると,次のものがあります。
「犯罪の要件論は,政策的原理に基礎を置き,体系的に一貫したものでなければならないのである。」(第2版)
「犯罪の要件論は政策的原理に基礎を置き,体系的に整序されたものでなければならないのである。」(第3版)いずれも強調引用者
「体系的に一貫したもの」から「体系的に整序されたもの」に表現が改められたのはどのような意図があるのかなどを考えるとなんだか楽しくなってきますね。僕だけでしょうか(笑)。
参照文献の更新
やはり9年ぶりの改訂ということもあって,この間たくさんの文献が登場・更新されています。代表的なものでは,井田教授の『講義刑法学・総論』や佐伯教授の『刑法総論の考え方・楽しみ方』,塩見教授の『刑法の道しるべ』などでしょうか。これらの文献が参照されている点でも,今回の改訂はとても価値のあるものだと思います。
欲をいえば,(西田総論のように)判例集もフォローしてほしかったのですが,求めすぎですかね(笑)。山口青本が判例刑法総論の項目番号を引用していたので少し期待していたのですが,この点はすこし残念です。
まとめ
山口総論は,結果無価値論から書かれた非常に明快な体系書です。結果無価値論,行為無価値論にかかわらずおすすめですが,特に結果無価値論に立とうとする方は本書が第一候補となるのではないでしょうか。とてもおすすめの一冊です。