刑法の基本書とかいろいろブログ

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西田典之『刑法各論』

 

刑法各論 第6版 (法律学講座双書)

刑法各論 第6版 (法律学講座双書)

 

 

今日,ご紹介するのは西田典之先生の『刑法各論[第6版]』です。

各論の基本書においては,おそらくトップシェアの教科書です。

多くの大学で教科書指定されており,大学の教授も各論では西田先生のものが一番だとおっしゃっていました。予備校本派だけど西田各論だけはおすすめという方もいるようです。総論はいまいちだが各論は素晴らしいという声も(もっとも,総論もすばらしいと僕は思いますが)。

今後の改定が見込まれないことは本当に残念です。しかし,今後も各論の教科書の定番として多く用いられるものと思います。

1 わかりやすさ

本書が人気な理由の一つとして,まずわかりやすいということがいえます。西田先生の文章はとてもやわらかで読みやすいです。それでいて丁寧な叙述がなされており,議論に飛躍がありません。具体例も豊富で,細かいが重要という論点についても,その多くが具体例とともに説明されています。

個人的にうれしいのは,定義がしっかり書いてあることです。段落のはじめに,「○○とは,~をいう。」というように明確に示されているのでわかりやすく,論証を考える際にも助かります。意外なことに定義が明確でない基本書もしばしばあるので,これは重要なポイントです。刑法の答案では定義を押さえていることが必須となりますから,ひとつのアドバンテージになるでしょう。

また,条文が引用されているのも学習者にはうれしいところです。六法を引けないような場所(たとえば電車の中など)でも勉強できますし,試験直前に急いで確認したいという場面でも有用でしょう。

なおわかりやすさに関していえば,細かな点ですが,本書の読点の打ち方はよく考えられていると思います(笑)。場面によって打ち方が使い分けられているので,わかりやすい文章のお手本という観点から見ても面白いかもしれません。

2 判例の丁寧な紹介

判例の紹介もきちんとなされています。判例の考えを推し進めるとどうなるのかについても言及されており,内在的な理解が進みそうです(たとえば,恐喝罪と賄賂罪の関係の部分など)。もっとも判例に反対することもままあります。しかし,そのような場合も丁寧な判例紹介があった上で,なぜ反対すべきかが明確にされています。

判例との関係で何よりうれしいのが,西田ほか『判例刑法各論[第6版]』有斐閣,2013)をフォローしている点です。判例を参照するハードルが下がるのでとても助かります。

3 その他

本書は,結果無価値論を採用しています。しかし,各論についてはそれほど対立はありませんし,実際に行為無価値論を採る人が用いても問題ないと思います。

なお残念ながら,自動車運転死傷処罰法には対応していません。しかし,それを補って余りあるものが本書にはあると思います。

とにかくおすすめの一冊です。ぜひ基本書候補のひとつとしてどうぞ。

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